マグポットセットにかかせないのが、ウルトラライトなストーブです。
山で使うストーブというと、登山用品店にはガスやガソリンのストーブが並んでいます。しかし、湯沸かし専用に考えた場合はもっと軽くてすむ、ほかの選択肢もあるのです。
アルコールストーブや固形燃料ストーブは、通常は火力が弱く、補助的なものになるのですが、湯を沸かすという目的に絞った場合には、充分に有効です。ここでは、定番の軽量ストーブのいくつかをご紹介します。
【ここで注意!】
固形燃料やアルコールは当然ながら可燃物です。必ず消火の準備をして取扱いするようにしてください。火気で何が起きても自己責任となりますので、くれぐれも火の始末にはご注意ください。小さいお子さんがさわれない工夫をするなど、配慮をよろしくお願いします。
重量:110g 材質:真鍮製 価格:約2600円
定番のアルコールストーブといえば、やはりこれでしょう。スウェーデンのトランギア社は半世紀以上もアルコールストーブを作り続けている老舗メーカーです。その重量は110gと、じつは他のアルコールストーブと比較してあまり軽くはありません。しかしこのストーブを事実上の標準品として紹介しておきたいと思います。燃料蓋や火力調整蓋が標準装備されていて、火力もありたいへん扱いやすいストーブです。
燃料蓋は個体によってパッキンが甘く、液漏れをするためアルコールを入れっぱなしの携行は推奨されていません。別途、アルコール燃料を入れるボトルを用意したほうがよいでしょう。また、どのストーブについてもいえることですが、一酸化炭素中毒の恐れがありますので、テントの中での使用は避けてください。また燃焼中に燃料の追加はしないようにしましょう。思わぬ炎があがり、危険です。燃焼中には本体が高温となりますので、綿の軍手や皮手袋をつけて手を保護するようにします。アルコール燃料は安価で、薬局などで500mlで200~300円程度で入手できます。燃料代が安くてすむところは、アルコールストーブのありがたいところですね。
実際に使用する際には、ゴトクが必要です。トランギア純正のゴトクもいくつか販売されています。
が、どれも大きくて、あまり満足できるものではありませんでした。
個人的にはエバニューのチタンアルコールストーブ用ゴトク(EBY253,16g)がおすすめです。価格は1050円でありました。
スノーピークシングルチタンマグ300を、さきほどの十字ゴトクの上にのせてみたところです。
アルコールストーブや固形燃料のストーブは、風に弱いので、実際に屋外で使用する際にはウィンドスクリーンで囲ってやると効果的です。
まずはこのアルコールストーブで基本的な扱い方を学ぶとよいでしょう。
以下は着火したところです。
Youtube動画も張り付けておきます。(着火方法も実演しています。初めての方はどうぞ)
着火から十数秒で本燃焼に移行して、あとは安定して長く炊けるのがこのストーブの良いところですね。
・エバニュー チタンアルコールストーブEBY254 ←今在庫切れなのか高額(ご注意)
重量:34g 材質:チタニウム 価格:約3600円
前述のトランギアを伝統的な製品とすると、こちらは日本製、最新鋭のアルコールストーブといえます。
重量はトランギアの3分の1以下、バーナーホールは2段式で、火力は弱まるもののゴトクなしでポットをのせることができる優れものです。
火力もトランギアに負けないものがあり、とくに湯沸しのみに限定しなくても充分すぎるものがあります。
スノーピークのシングルチタンマグ、600/450/300は問題なくゴトクなしで使えます。
ただ、ゴトクなしで上にのせる場合は本燃焼を見届けてからにしないと消火してしまいますので、注意が必要です。
さきほどのトランギアもそうなのですが、アルコールストーブは燃焼が静かです。
ガスのようにゴーッと音がしないため、自然界の音をかき消すノイズ音がでないことも、大きな魅力となります。
ちなみにこのストーブはオプションというか、ストーブスタンドのセット(セット品EBY255、スタンドだけEBY257)があります。
固形燃料のゴトクやウッドストーブとしても使用できるそうです。ただ、固形燃料のゴトクとしては大仰です。またウッドストーブとしてはかなり容量が小さいため、小枝を頻繁に投入することになります。あまり現実的な使い方ではないでしょう。個人的にはこのストーブ単体での使用がベストだと思っています。
以下は、着火したところです。
Youtube動画も追加しました。炎のかたちがたいへん美しいストーブです。
本燃焼までは1分30秒、といったところでしょうか。待てないひとは、最初にアルコールを全体に少しまぶしかけておいて着火し、丸焼きにすると本燃焼までひといきに移行するという荒業があります。(自己責任でお願いします。)
重量:36g 材質:アルミニウム 価格:2800円~
この日本製のアルコールストーブの特徴は、なんといっても軽さと安定性です。材質はアルミニウム、フォルムはサイドバーナー方式で火力も強めです。
すこし直径の大きいポットによいサイズなのですが、ここではSP600などにあわせてみるとよいでしょう。
ゴトクが不要で、そのままポットを載せられる、それが大きな魅力です。
写真のストーブの下にしいているのがプライマリーパンと呼ばれるものです。
少しアルコールをたらしてストーブ本体をあぶっておくと、本燃焼までの時間を短縮できます。
SP600にマッチする点を挙げておきます。
・容量があるので火力の強いストーブがよい
・プライマリーパンも含めカップへ収納できる
・サイドバーナーがちょうどカップ底にあたる
以下、着火したところです。
こちらもYoutube動画を付けておきます。
プライマリーパンの効果で、本燃焼まで1分くらいに短縮されています。直置きかつ、かなりの火力がありますので、比較的大きなポットでも対応します。重心も低いので安心感がありますね。ただ、大きな火力と引き換えに、燃費は上記3つのストーブのなかで最も悪くなっています。ほかのストーブよりも多めに燃料は携行したほうがよいでしょう。
以上、メジャーなアルコールストーブを三点ご紹介しました。ほかにもご紹介したいガレージメーカーさん発のものがありますが、今後書いていきたいと思います。
重量:135g 材質:チタニウム 価格:6580円
ペンシルバニアはルイスバーグ、チタン製の山ギアで有名なブランド、VARGOからはいくつものユニークなプロダクトが発売されています。
その中からここではウッドストーブをご紹介することにします。
重量、値段ともに比較的重い部類に入るかもしれませんが、山で拾った小枝などを燃料にして火を使える、つまり燃料を現地調達することができるという利点があります。
実際に使う場合には、SP600やSP450ならばそのままポットをのせられます。
SP300のように小さなものは、テントのステイクを横に渡してその上にのせるようにします。
ゴトクとウィンドスクリーン、場合によっては燃料の携行が不要となるため、それらの総重量をもって比較すべし、というわけです。
右の写真は、フタ付SP300をのせたところです。
ちなみに、小枝だけでなく固形燃料でも当然問題ありません。
前述のトランギアTR-B25やエバニューのEBY254を中に格納して、ウィンドスクリーン兼ゴトクとして活用するやり方も有名です。
これらはどちらかというと、調理に重点を置いたソロキャンパーに多いようです。(重くなります。)
ウッドストーブは薪を集めたりする必要がありますが、自然との一体感が味わえるストーブといえます。
注:場所によっては落ちている小枝や薪などの採取が禁止されているところもあります。事前に確認するようにしてください。
下の写真や動画は、撮影用に固形燃料を仕込んで実際に使ったときのものです。
・エスビット ポケットストーブ 重量:85g(本体のみ) 材質:ブリキ? 価格:1188円
固形燃料ストーブの定番といえば、まずこれです。街の山道具屋さんにもよく置かれています。価格も1000円ちょっとでゴトクと燃料が手に入り、非常にリーズナブルです。固形燃料を使った経験がないなら、迷わずこれから入るとよいでしょう。パッケージはスタンダード版とミリタリー版の2種類があります。違いはヘキサミン固形燃料1個の大きさです。各々、燃料のみでも購入できます。
スタンダード版は4g×20タブレット、ミリタリー版が14g×6タブレットでかつ防湿パックになっています。燃焼時間は4gタブレットで6分間、14gタブレットで15分間です。輸入元の飯塚カンパニーのサイトの説明書きは燃焼時間が間違っていましたので、上記で憶えておくとよいでしょう。
400mlくらいまでの湯沸しを想定するならば、4gの固形燃料が便利です。
ただスタンダード版は防湿パックされていませんので、その点は注意が必要です。また、有害なススがでるため、直火で食べものをあぶるのには適しません。あくまでもポットなどを加熱する用途に使用してください。
なお写真のポケットストーブは黒く塗装されたものですが、オリジナルはパッケージの写真にあるように、グレーです。(ススがついても汚れた感じにならないので、筆者の好みで耐熱塗料のマットブラック仕上げにしています。)
ちなみにこのプロダクトには、そのままふたまわりほどビッグサイズにした、その名も「ポケットストーブ・ラージ」というバージョンがあります。
大きい鍋ものせられるという記述がありましたが、これはどうやってもポケットには入りそうにありませんでした…。もはや、「ポケット〇〇」ではありません。
左の写真は、実際にSP600をのせてみたところです。
これ以上のサイズのものをのせる場合は、ゴトクを直角まで開いて使用するようにします。
そこそこ軽くてこの値段、補助ストーブや緊急用・非常用として、ひとつは揃えておくと安心できる一品です。
・エスビット チタニウムストーブ 重量:11.5g 材質:チタニウム 価格:1680円
マスメーカーの固形燃料ストーブ(ゴトク)では、長らく最軽量モデルとなっているエスビットのプロダクトです。
チタニウム製で重量はわずか11.5g、フォールディングタイプで足を開き、エスビットの固形燃料をのせて使用します。折りたためばどのサイズのカップにも入るコンパクトさです。
しかし、少々注意すべき点があります。
それは、ゴトクにのるポットの直径があまり小さすぎてはならない、ということです。
SP600やSP450では問題なく使用できますが、SP300となると厳しいでしょう。
SP450と同径のマグは数多く販売されていますので、それらをお持ちであれば気にすることなく使用できます。(モンベル、VARGO、EPIgas、テラノバ、etc…)
左の写真が、実際に足を展開したものです。
中央の台座に固形燃料をのせ、ライターなどで着火します。
4gの固形燃料だと、微妙に沸騰にいたらないケースもあるようです。
このワークアラウンドとして、アルコールを数滴たらしておいてから着火する、という手法があります。
右の写真が実際にSP600マグをのせたところです。
ストーブがほとんど隠れてしまっていますが、効率よくマグ底部を火にかけられる構成となっています。
風に弱いため、多くの場合はウィンドスクリーンと併用する必要があります。
逆に、息をフッと吹きかけて消すこともできますので、使用途中で沸騰したら、そのまま吹き消して次回また続きから使う、といったこともできます。
次に紹介するTriPodがリリースされるまでは、先鋭的なストーブ(正しくはゴトクかな?)でした。
Air : 重量:3g 材質:ステンレス 価格:3600円
Power : 重量:7g 材質:ステンレス 価格:4000円
PowerH36 : 重量:7g 材質:ステンレス 価格:2100円
Ti Power : 重量:4g 材質:チタニウム 価格:5400円 価格改定あり ※個別記事
※チタニウム版の形状はステンレス版TriPod Powerと同様です。
PowerH70 : 重量:10.5g 材質:ステンレス 価格:3900円 ※一般価格
ガレージメーカー、というよりもアウトドア好きの”プロの設計者”の方がデザインした、超軽量の固形燃料用のゴトクです。カエンやほかの100均系固形燃料や、エスビットのヘキサミン固形燃料、果てはドリンクのアルミキャップなどを使ってのアルコールバーナーのゴトクとして使用することができます。これぞ「究極のウルトラライト」といえるでしょう。
TriPod Airは、おそらく世の中に存在するゴトクの中では最軽量となります。筆者は、六甲の白馬堂さんで入手しました。(2013年12月05日に記事更新)
本サイトの用途的には、耐荷重は充分Airで足ります。つまりこちらのプロダクトがウルトラライトの本命となります。
TriPod Powerは、デザイン的にも優れており、2013年の京都デザイン展で入賞し、製作者の松山氏は京都府の表彰を受けています。
このサイトの主旨(ウルトラライト)にも関わらず、そのあまりの美しさにTriPod Powerのほうを先に手に入れてしまいました…。
これでもたったの7g、エスビットのチタニウムストーブよりはかなり5g弱落せてるんだから、と自分を納得させて先に入手したのです。
それだけの魅力・魔力がこの作品にはある、ということかもしれません。
本当にこの、TriPod Powerはたいへん美しいものです。生みの親の松山さんは本当にさらりとおっしゃっていましたが、このフォルム、製作手法は本当に見事としか言いようがありません。
ぜひ、リッドの製作のヒントとして取り入れたいものです。アレンジバージョンもいろいろ考案されているようですので、今後も多いに期待できます。
TriPod Air と「はめこみ式」のウルトラライトストーブ。
TriPod Power を中にセットするタイプのアルコールストーブ。このタイプは熱の還流により、アルコールが加熱されて火力が増します。
TriPod Power と 100均固形燃料 での燃焼。
なお、2013年の暮れに「Tripod Power H36」がリリースされました。(2013/12/23の記事)
写真の左は従来の「Tripod Power」で、右が「Tripod Power H36」です。
こちらも左側がTriPod Power 、右側が TriPod Power H36。それぞれの高さにあったアルコールストーブをあわせて燃焼テストを行った例です。
ウィンドスクリーンを設置しておらず、風にあおられています。やはり風対策は大事…。
動画(日中バージョン ※アルコールストーブの特徴で、日中は炎がみえません。)
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動画(夜間バージョン ※日が落ちると炎がみえるようになります。)
TriPod Airその1
TriPodAirその2
TriPod Power
TriPod Power H36 ※これは風防がないとダメな例です。
・マイクロサイドバーナーストーブ 重量:4g 材質:アルミニウム 価格:約200円
最後に番外として、自作のアルコールストーブも紹介しておきます。
このシンプルかつ、軽量なストーブは「ウコンの力」などの小さなドリンク缶を流用して製作したものです。
アルミ缶の塗装を磨き落としてから水平にカットし、パンチ穴あけ加工をしたものが右の写真です。
この種のサイドバーナー式ストーブのメリットは、ゴトクなしでそのままSP220、SP300、SP450、SP600を搭載することができます。
意外にもこれは重宝しています。小さなマグをのせて、かつマグ底部に効率よく炎を直噴できるようなものが市販品でなかったので、製作してみました。
ほかにも、コーラ缶などを組み合わせたりしたものをよく作りました。しかし、直径が大きくなると、結局は既成品のストーブで事足りてしまいます。また、ゴトクについても合うものを用意する必要がでてきます。ということで、自作のものは上記のストーブに落ち着いています。
2015年1月4日追記:
ウルトラライトという観点では少々脱線かもしれません。
昨年アトリエ雪月花からリリースされたTriPod Power H70についても書いておきます。
2014年末時点で、松山さんの最新作です。
「H70」はトランギアの定番アルコールストーブTR-B25にあわせて作られた、超軽量ゴトク。
これまでトランギアのゴトクといえば、純正品(やたらと大きく重いアレ^_^;)か、エバニューから発売されている十文字のゴトクなどが思い浮かぶところだと思います。
軽さという点ではエバニュー十文字ゴトクは充分に軽く、前述のとおりオススメなのですが、燃焼効率の観点でいくと、さらにこちらのほうに軍配があがります。
写真で見ていただいてもわかるかと思いますが、エバニューのそれと比べてもストーブから鍋底までのクリアランスが長めにとられているのです。
これにより、エバニューよりも効率よく外炎を鍋底にあてることができ、湯沸しにかかる時間が短縮できます。細かい気温、水温など条件は記録していませんでしたが、手元の環境では十字ゴトクでほぼ4分沸騰の水量のに対して、H70で3分ちょっと、といったところでした。)
比較的大きなポット(といってもこのブログではスノピマグ600ml以上のクラス)をのせる場合、それに応じた水量になるわけで、より早くお湯が沸いてくれればそれだけ寒い時期には心底ありがたいことなのです。
逆に、スノピ450mlクラスに対しては鍋底の径が足りませんのでオススメできません。
エバニュー400FDは径には問題ありませんが、高さがあるため中には収納しきれない、という問題があります。
まあ、このクラスの場合は十字ゴトクで沸かしても大して時間がかかるものではありませんので、これはこれで良いでしょう。(^_^
なお、このTriPod Power H70 は作者の松山さんから直接わけてもらっていて、かぶとやま工房のプライベートストアでも販売しています。(ページはここ)
TriPodシリーズは比較的レアなギアですので、気になった時に入手をオススメします。
(たとえばTriPod Airはもうほとんどの山道具屋さんで品切れ・在庫未入荷です。)
あ、でもかぶとやま工房のプライベートストアはあいもかわらず在庫が少ないですので、品切れの際は他店もぜひぜひご覧ください。(^_^;
このブログでは、ほかにも超軽量マグをポットに見立てて活用する「マグをポットに」ページ、マグにあわせて使用するリッドについて書かれた「リッド・フタについて」ページがあります。
ウルトラライトにご興味のある方は、あわせてチェックしてみてください。